ファミレスや焼肉店に行くと、もはや当たり前の存在となった「配膳ロボット」。 料理を運んでくるときに、軽快なメロディを流したり、「通りますニャン♪」と可愛らしい声を出しながら走ってくる姿は、子どもたちだけでなく大人にとっても興味深い光景です。
しかし、何度もロボットを見ているうちに、ふとこんな疑問を持ったことはありませんか?
「あのお店とこのお店で、流れている曲が全然違う気がする」 「ココスのロボットの曲、妙に耳に残るけどなんて曲?」 「ガストのロボットは音楽が鳴らなくて静かなのはなぜ?」 「あの音楽って、店員さんが選んでるの?」
実は、配膳ロボットが流す音楽は、ロボットの機種(メーカー)や店舗の運営方針(ブランドイメージ)によって、明確な意図を持って使い分けられています。
この記事では、現在日本の飲食店で活躍している主要な配膳ロボットの「音」の違い、ココスやガストなどの大手チェーンでの運用事情、そして意外と知られていない「音楽を流す本当の目的」や「隠された機能」について、どこよりも詳しく解説します。
配膳ロボットが流す「音」は大きく4パターン
一口に「配膳ロボットの音」と言っても、実はお店によって全く異なる音が流れています。大きく分けると以下の4種類に分類されます。
① ピコピコ系の電子BGM(最も多い)
多くの店舗で採用されているのがこのタイプです。 8bitゲームや、ひと昔前の着メロを彷彿とさせるような「電子音」のメロディです。
- 特徴: 高音域でよく響くため、騒がしい店内でも聞こえやすい。
- タイミング: ロボットが料理を運んで移動している最中にループ再生されます。
② キャラクターボイス+効果音
近年急増しているのが、ロボットに「人格」を持たせているタイプです。
- 特徴: BGMだけでなく、「お待たせしましたニャン」「熱いから気をつけてね」といったセリフを喋ります。
- タイミング: 到着時、頭を撫でられた時、道が塞がれている時などに特有のボイスが流れます。
③ 店舗オリジナルのメロディ(イベント用)
常に流れているわけではありませんが、特定の設定をした時にだけ流れるレアな音楽です。
- 代表例: 「ハッピーバースデー」の曲。
- 多くの場合、店舗スタッフが操作パネルで「誕生日モード」に切り替えることで流れます。
④ 無音(音声アナウンスのみ)
BGMを一切流さない「サイレント運用」です。
- 特徴: 走行音(モーター音)だけで静かに近づき、到着したときだけ「お料理をお持ちしました」と業務的なアナウンスを流します。
- 導入店舗: 高級感のある店舗や、落ち着いた雰囲気を重視する店舗で見られます。
【メーカー別・動画検証】流れている音楽の曲名を紹介
「あの店で聞いた音はどのロボット?」 ここでは、日本で導入されている代表的な3機種の「音の特徴」を深掘りします。
① BellaBot(ベラボット)|メーカー:Pudu Robotics
ココス、焼肉きんぐ、しゃぶ葉などでよく見る、猫の耳がついた大人気ロボットです。
- 音の傾向:エンタメ全開の「可愛い系」 BellaBotは、表情豊かなディスプレイとセットで「音」が設計されています。
- 走行中: 「テテテ♪ テテテ♪」といった軽快でテンポの良い電子音BGM。
- 到着時: 「到着しましたニャン!」「お料理を取ってニャ」と、アニメ声優のような高い声で喋ります。
- 特徴: 耳を撫でると「気持ちいいニャ〜」と喜んだり、撫で続けると「仕事の邪魔はしないでニャ!」と怒ったりするなど、音声のバリエーションが非常に豊富です。
YouTubeでベラボットの音楽をまとめている方がいます。ベラボットには以下のような曲があるようです。
② Servi(サービィ)|メーカー:ソフトバンクロボティクス
ガストやバーミヤンなどのすかいらーくグループで主力として活躍している機種です。
- 音の傾向:業務効率重視の「静音系」 Serviは「接客のプロ」というコンセプトで設計されており、無駄なおしゃべりはしません。
- 走行中: 基本的には無音。または、環境音に溶け込むような非常に小さな音。
- 到着時: 「ピンポン♪」という上品なチャイム音の後、「お料理をお持ちしました」「重量オーバーです」など、落ち着いた女性の声で正確にアナウンスします。
- 特徴: ネコ型のようなキャラクター性はなく、あくまで「優秀なスタッフ(黒子)」としての振る舞いが音にも表れています。
③ KettyBot(ケティボット)|メーカー:Pudu Robotics
縦長の大きな広告ディスプレイが付いている、少し背の低いロボットです。
- 音の傾向:情報を伝える「アナウンス系」 BellaBotと同じメーカーですが、こちらは「広告・案内」が得意です。
- 走行中: 軽めの電子音BGMに加え、ディスプレイに流れる広告動画の音声を流すこともあります。
- 特徴: 「いらっしゃいませ」「おすすめメニューはこちらです」といった販促ボイスがクリアに聞こえるよう調整されています。
チェーン店ごとの音楽事情:ココス vs ガスト
同じメーカーのロボットでも、お店の設定次第で全く違うキャラクターになります。対照的な2大チェーンの事例を見てみましょう。
【ココス】なぜあんなに賑やかで可愛いのか?
ココスでは、主にBellaBot(ネコ型)が導入されていますが、その運用は非常に「賑やか」です。
- 流れている音楽: 非常にキャッチーで明るいオリジナルBGMが設定されています。SNSやYouTubeでは、「ココスのロボットの曲が頭から離れない」「鍵盤ハーモニカで耳コピしてみた」という投稿が相次ぐほどの人気ぶりです。
- なぜ賑やかなのか?: ココスはファミリー層、特に小さなお子様連れの利用が多いためです。ロボットを単なる「運び役」ではなく、「子どもが喜ぶアトラクション」として位置づけています。そのため、あえて音楽を大きめにし、キャラクターボイスも積極的にオンにしています。
【ガスト】なぜ音楽を流さず静かなのか?
一方、ガストでは主にServi(一部店舗でBellaBot)が導入されていますが、運用は対照的です。
- 流れている音楽: ほぼ無音です。
- 運用の特徴:
- 走行中のBGMはオフ設定。
- 発するのは、到着時のチャイムと必要最低限のアナウンスのみ。
- 「前を通ります」といった注意喚起も、控えめな音量です。
- なぜ静かなのか?: ガストをはじめとするすかいらーくグループは、ビジネスマンの利用や、食事中の会話、落ち着いた空間作りを重視しています。「ロボットが悪目立ちして、お客様の会話やBGMを邪魔してはいけない」という配慮から、あえて静かな「黒子設定」を徹底しているのです。
そもそも、なぜ音楽を流しながら走る必要があるの?
「静かなほうがいいのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、多くのロボットが音楽を流すのには、安全上の明確な理由があります。
理由①:EV(電気自動車)と同じ「接近音」の役割
これが最大の理由です。 配膳ロボットはバッテリーとモーターで動くため、音を消すと完全に無音で走行できてしまいます。
しかし、店内にはドリンクバーに向かう人や、トイレに行くお子様など、多くの人が歩き回っています。 もし無音でロボットが背後から近づいたらどうなるでしょうか? 急に振り返ったお客様と衝突したり、足元にいるロボットに気づかずつまずいてしまう危険性があります。
プリウスなどのハイブリッド車やEVが、低速走行時にあえて「ヒュイーン」という音を出しているのと同じ理屈で、「ここにロボットがいますよ!ご注意ください!」と周囲に知らせるために、あえて電子音を流し続けているのです。
理由②:エンターテインメントとしての役割
特にBellaBotなどのキャラクター型ロボットに当てはまります。 音楽を流しながら登場することで、お客様の視線を集め、「あ、ロボットが来た!」「かわいい!」というポジティブな感情を生み出します。 これにより、「料理を待つ時間」が「楽しいイベントの時間」に変わり、顧客満足度の向上につながっています。
知られざる「設定」の裏話|店舗側で音楽を変更できる?
ここでは、あまり知られていないロボットの「音の設定」に関するトリビアを紹介します。
音楽や声は店舗側で変更できる?
ほとんどの配膳ロボットでは設定が可能です。
ロボットの管理画面には、以下のような詳細な設定項目があります。
- 音量設定: 0(ミュート)〜100(最大)まで調整可能。ランチのピーク時は大きめに、深夜帯は小さめに、といった調整を店長が行っていることがあります。
- BGMの選択: プリセットされている数種類の曲から選べる機種もあります。
- ボイスの変更: 一部の機種では、標準語だけでなく「関西弁」「英語」「中国語」、さらには期間限定で「人気アニメ声優の声」に変更できるコラボ機能が実装されることもあります。
「バースデーモード」をご存知ですか?
多くの配膳ロボットには「誕生日お祝い機能」が搭載されています。 予約のお客様や、その場で誕生日だと伝えたお客様の席に行く際、店員さんが設定を切り替えると…
- いつもの電子音BGMが「♪ハッピーバースデー・トゥー・ユー」のメロディに切り替わる。
- ロボットが到着すると「お誕生日おめでとうございます!」と喋る。
といった演出をしてくれます。 もしお誕生日のお祝いで店舗を利用する際は、お店の方に「ロボットでお祝いできますか?」と聞いてみると、特別な音楽が聴けるかもしれません。
まとめ:今度お店に行ったらココに注目!
配膳ロボットの音楽は、単なるBGMではありません。 そこには、「安全への配慮」と「お店の雰囲気作り」という2つの重要な意図が込められています。
- ココス(BellaBot)のように、賑やかで楽しい音楽なら「エンタメ・ファミリー重視」。
- ガスト(Servi)のように、無音で静かなら「居心地・効率重視」。
ロボットの機種だけでなく、「どんな音を出しているか」に注目することで、そのお店が大切にしているサービスの方針まで見えてきます。
次にレストランに行ったときは、ロボットが近づいてくる「音」に耳を澄ませてみてください。 「あ、この曲はあの機種だ!」「ここは静音設定だな」と分かると、待ち時間が少しだけ楽しくなるはずです。
よくある質問(FAQ)
記事で紹介しきれなかった、細かい疑問についてQ&A形式で回答します。
Q1. ココスのロボットで流れている音楽に曲名はありますか?
A. 現在流れているBGMは、BellaBot(Pudu Robotics社)に標準搭載されているオリジナル音源のひとつと考えられます。YouTube等で曲名を紹介されている方がいます。あまりの人気ぶりに「耳コピ」して再現する人が続出しています。
Q2. 食事中にロボットの音がうるさいと感じたら、音を消せますか?
A. お客様自身での操作は推奨されません。店員さんに相談しましょう。 ロボットの画面を勝手に操作して無音にすると、他のお客様との接触事故につながる危険があります。どうしても音が気になる場合は、店員さんに「少し音を小さくできませんか?」と相談してみてください。店舗側の管理画面で音量を調整してもらえる場合があります。
Q3. ロボットが近づいてきてもBGMが聞こえなかったらどうなりますか?
A. 高性能なセンサーで自動停止します。 音楽はあくまで「気づいてもらうため」の補助です。もしBGMが聞こえず、お客様がロボットの目の前に飛び出してしまっても、搭載されている「LiDAR(ライダー)」や「3Dカメラ」などの障害物検知センサーが瞬時に反応し、自動で急停止・回避するよう設計されています。
Q4. 誕生日の音楽を流してもらうにはどうすればいいですか?
A. 事前の予約または入店時にスタッフへ伝えましょう。 すべての店舗で対応しているわけではありませんが、誕生日サービスを行っている店舗(焼肉きんぐや一部のファミレスなど)では、店員さんが設定を「バースデーモード」に切り替えて配膳してくれます。サプライズを希望する場合は、必ず来店時に確認することをおすすめします。
Q5. BellaBot(ネコ型)の耳を触ると怒られるって本当ですか?
A. 本当です(ただし、最初は喜びます)。 BellaBotは耳の部分にタッチセンサーがあります。一度撫でると「気持ちいいニャ〜」と喜びますが、何度も連続で触り続けると「仕事の邪魔はしないでニャ!」「触らないで!」と怒った表情に変化します。この「ツンデレ」な反応も人気の理由のひとつです。

コメント